OL缶

キョロちゃんとOLは、大空を飛び回る夢を見る。

優秀な探偵の皆さん、こんにちは。

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探偵ナイトスクープ』に依頼したい案件があります。

 

三十数年前の、文通相手の少女を探してほしい。

そして渡せなかった最後の手紙を届けてほしい。

 

ちょっと話が遡りますが、母親が突如思い立って実家の断捨離をはじめました。

終活の一環らしい。

で、まずは倉庫に眠っているわたしと妹の子ども時代の思い出の品々から断捨っていくことにしたらしく、幼稚園の頃のお絵描き帳とか、小学生の頃の図工の作品とか習字とか日記帳とか、あげく昔の写真も「写真なんて見返すことないからもういいよね?」つってポリ袋(45L)に容赦なくがんがん放っていくので、「ちょっと待てぇーーい!!!」てなりました。(母子手帳も捨てようとしていました。もうあんたら大人になったから要らないからって言ってました。そうなの?)

「いつまでも過去を眺めてたってしょうがないでしょう?」という母の言い分はよくわかる。むしろかっこいいとすら思う。でもさ、

いやなんでまずそこ(思い出)からなの?って話ですよ!うちの実家、けっこうなゴミ屋敷っつーか、モノで溢れてんの。主に母親の。まずは五年着てないおかーさんのそこの服とか服とか服とか服とか、発泡酒をケース買いして貰った保冷バッグとかハーゲンダッツ六個買ってもらった保冷バッグとかもっかい発泡酒のケース買いで貰った保冷バックとかリンネルの付録の保冷バッグとかから処分しません?(保冷バッグ何個あるの!)倉庫は後回しにしてまずは本宅のゴミからやっつけてもらえませんかね!?

 

「日記(※小学校の連絡帳/大量)は読み返したいからもうちょっと置いといてよー」と文句を言うと

「なら持ち帰って自身で保管してください」(ピシャリ!)

て言われました。(すみませんでした、どうぞ捨ててください。><)

そんなこんなで山積みの思い出を妹と一緒に分別していく中に、わたしの古いランドセルもありました。朽ちて触ると何かがぽろぽろ落ちてくるそれを「うげー キチャネー」てなりながら開けて逆さに振ると、当時のアイドル達のシール、よくわからないキャラクターのノート、プリント類に混じって、折りたたまれた数枚の便せんと、封がされた封筒が出てきて、わたしはそれが何であるかを瞬時に察知し、サーッと血の気が引いたのでした。

 

 

カレコレ三十数年昔、我が家では『小学生新聞』というものを取っていた時期がありました。確かわたしが親にねだって、けれど結局ほとんど読まなくてすぐやめた気がします。

(他にも、学研の毎日の学習と科学とか、マイコーチとか、長く取ってたけどわたし全部無駄にしたな…)

その小学生新聞に、『文通相手募集』のコーナーがありました。

文通。

遠く離れた町で生活する、同世代の知らない子との手紙のやりとり。それはSNSなんて思いもよらなかった昭和の時代に、250万乙女を魅了したコミュニケーションツール。

小学生だったわたしも例にもれず文通に憧れたのですが、「知らない人と交流なんてしちゃダメ!」と両親に叱られるのではないかと勝手に思い込み、思い悩んだ末、親には内緒でこっそり文通を始めることにしました。両親は共働きだったのでわたしが先にポストを見る確率は高いし、もし見つかっても「転校したお友達と文通してる」って言えばいいや♪、と。

 

紙面に掲載されていたいくつかの文通希望の葉書からわたしが選んだのは、同い年の女の子でした。他の葉書はどれも目がキラキラの少女漫画風の女の子を描いていましたが、彼女だけがただの黒い丸い目の、かわいらしいうさぎのイラストでした。この絵が一番かわいい、と思ったのが決め手でした。あと偶然、漢字は違うけれどわたしと下の名前が一緒なのも嬉しく思いました。

 

はじめて彼女からの手紙が届いたときの興奮は、いまでも覚えています。

お手紙ありがとう!同じ名前なんだね!これからよろしくね!みたいなことが書いてあって、それから彼女は「リッコ」って呼んでいい?とわたしのニックネームを決めてくれて、それが今までただの一度も呼ばれたことがない呼称だったので自分の名前じゃないような妙な気分になりつつも、でもやっぱり嬉しくて、わたしはまたすぐに一生懸命返事を書いたのでした。

 

嘘にまみれた返事を。

 

…嘘にまみれた、という表現は適切ではないかもしれません。

意図して嘘ばかり書いたわけではないし、そもそも嘘を書くつもりなんてありませんでした。ただ、都合のいい事実だけを部分的に切り取って、思い込みとちょっぴりの見栄と誇張ばかりをしたためることで、結果、どんどん真実から遠ざかったわたしとは別人格の「リッコ」が出来上がってしまったのです。

「リッコ」は、こうありたい理想のわたしでした。

快活(嘘)で、体育と国語が得意(体育嘘)で、クラスの人気者(嘘)で、好きな男の子とは片思い中ではあるけれどいい感じ(思い込み)で。

 

そんな自分本位な文章を、彼女は無邪気に受け入れてくれました。

彼女からの手紙がもう一通も残っていないので確認はできないけれど、彼女の手紙はわたしとは違って、落ち着いた、優しい文章だったように記憶しています。

きっと等身大の彼女自身だったんだろうな。それとも、ほんとは彼女も嘘ばっか書いてたのかな。だといいな。そうであれ!(そしたらお互い様!わたしの心が救われる!

 

文通は一年ちょっとか、二年経たないくらい?で突然終わりました。

 

わたしの方が、手紙を出すのが面倒になってしまったからです。

文章を書くのは楽しかったのだけれど、切手を貼ってポストに入れる、たったそれだけの作業が面倒で、なんとなく返事を返さなくなってしまいました。(最低)

文通が途絶えて半年ほど過ぎた頃だったか、一度彼女から葉書が届きました。

「元気ですか?手紙が途絶えてしまったので心配してます。」というような内容でした。

やっべ、返事書かなきゃ…と思いつつ、まあでも彼女は文通相手を募集した側なので、きっとわたしの他にもいっぱい返事がきてていろんな人と文通してるだろうし…と謎の言い訳で自分を納得させ、二度と返事を返すことはありませんでした。(ほんと最低)

 

 

瞬時に服の中に滑り込ませ後でこっそり鞄にしまった古い便箋と封筒。

それは、かつて少女だったわたしが文通相手に出そうとしてそのままになっていた書きかけの手紙でした。(封筒の方は、幼い文字できっちりと住所と宛名が記され封もされ、あとは切手を貼るだけの状態でした。)

とりあえず剥き出しの便せんを開いて数行読んだだけで「ぎゃああああああああ/////」ってなって(慙死)、封筒の方は恐怖で封を切ることすらできませんでした。

 

やば…  「リッコ」ちゃんの文章表現やっばぁ…      

「リッコ」ちゃん、いった(痛)ぁ…

 

その便せんと封筒は、そのまま貴重品入れに仕舞っておくことにしました。

とても読めたもんじゃない。でも捨てることもできない…(複雑)。

いまのわたしではまだ羞恥心がはるか上回って到底許容できないけれど、二十年、いやさんじゅ…四十年後くらいのわたしなら、「幼いリッコちゃんかわいいわねぇ」てにっこり笑って受け入れてくれるかもしれない。リミおばあちゃんどうかよろしくお願いします。

 

そしてふと、かつての文通相手の少女のその後が気になりSNSで検索してみました。

めずらしい名字だったし、もしかしたら…と。

一件、それらしい女性がヒットしました。

当時の住所と同じ県内で、ヨガの講師をされていました。

けれどそれが本当に文通相手の少女ご本人かはわかりません。同姓同名かもしれないし、女の人は結婚で姓が変わっちゃってることも多いし。

 

『探偵の皆さん、こんにちは。

わたしには三十数年前に文通していた相手がいるのですが

 

 

 

                               』

 

ってナイトスクープへの調査依頼文考えてみたんだけど採用してもらえそうなおもしろい文章が全っっ然浮かばない!!

しかもいま「ナイトスクープ 依頼文 コツ」で検索してみてわかったんだけど、人探しってほとんど採用されないらしい。でしょーね、ありふれてるし、トラブルも多そう。

あと万一採用されたとして、テレビ出演を会社の人に知られるのはちょっと…(おまえそういうとこだぞ)

 

でもいつか

 

ほんのすこしの勇気をもって、何十年ぶりの最後の手紙を書いてみたいと思うのです。

 

あの頃の手紙嘘ばっかりだったの、ごめんね、って。

 

そしてもうひとつ伝えたい。

嘘ばっかりだったけれど(しかも一方的にいなくなっちゃったけれど)、でも当時、本当の本当の心のうちを吐き出せていたのも、手紙の中だけだったんだよって。だって「リッコ」は、実生活では好きな男の子がいることも誰にも秘密にしているような女の子だったから。

「リッコ」にとって、彼女との手紙のやりとりは心の拠り所でした。

特に十代後半、二十代の頃は人生があまりうまくいかなくて、何度も彼女のことを思い出しました。今頃もし交流を続けていたら、いつも優しくてかわいらしかったあの子はどんな言葉をくれていただろう、わたしたちはどんなふうに関わっていたのだろう、と。

 

それにやっぱり、時を経てランドセルから発掘された封をされたままの手紙は、リミおばあちゃんよりも彼女に読んでもらいたい。どんだけ赤っ恥でも、未熟でも、大嘘でも、幼いリッコちゃんが何度も書き直して、その時の精一杯の気持ちを詰め込んで仕上げたものだから。

 

つーか、住所わかってんだからナイトスクープに頼まなくてもまずは郵便で送ってみろって話です。引っ越ししてたら宛先人不明で返ってくるだろうし…いやでもマジでなんの関係もない他人に読まれてSNSに晒される可能性も……(ブツブツ (書留、 か?

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 普通郵便(定型内)が60円…!時代…!

 

ところでうちの母親、子どもの思い出の品以降まったく断捨離やる気配ないんだけど何なの?

あとあれだけなんもかも躊躇なく捨ててたくせに、「ねえねえこんなの出てきたんだけど…これはとっとく?」って持ってきたのが幼稚園の卒園証書だったんだけど、どういう感覚?そんなもん一番いらんわ!w